『墨染楼閣』黒く塗り潰された呪われし運命を切り開け!大正サスペンスホラー長編ビジュアルノベル

〇ホラー/サスペンス要素ありの大正長編ビジュアルノベル
〇序盤に張られた伏線が徐々に回収され集約に向かうミステリアスなストーリー
〇分かりやすくシンプルなゲームシステム

目次

概要

サークル『8bluepiece』によりティラノビルダーにより製作された大正サスペンスホラービジュアルノベル。ノベルゲームコレクションにてプレイ可能。ホラーやサスペンスな要素を持ちつつも謎多きミステリアスなストーリーが魅力。プレイ時間は10時間程度。

ストーリー

不気味で神秘さもあるイベントスチルは本作の世界観にピッタリあっている

大正4年(1915年)、田舎から上京してきた主人公の斎羽依千葉(いはばね いちは)は、日本でも有数の大富豪、御宮司一家の屋敷で使用人として働いていた。彼女は眠れない夜に庭に出たところ、般若面を被った人物に刺され、そのまま意識を失う。

そして目覚めたとき、彼女は御宮司の屋敷の中にいた。傷は残っておらず、ただの悪夢を見たと結論付けようとした依千葉。だけどそこは御宮司の屋敷の中のはずなのに、人の気配がまったく感じられず、内装もどこかおかしかった。彼女はまだ夢の続きを見ているのだろうか?

BGMやSEの相乗効果もあり、演出はなかなかにホラーである

――――そしてそこで出会ったのは、死に装束を着た少年少女と、いくつもの目と口を持つ化物。
化物に追いかけられた依千葉は必死で逃走を図るが――――

ゲームシステム

特筆する点は少ないシンプルなノベル形式

ゲームシステム周りは正直にいうと最低限という印象

ゲームシステムは至ってシンプルで、ただテキストを読み進めるだけのもの。選択肢もプレイ時間の割りにはかなり少なく、大きな分岐も発生しないためシナリオは一本道と言ってしまっても差し支えないだろう。ノベルゲームらしく、誰でも遊べるゲーム性だとも言える。

機能面ではセーブ&ロードに加えてオート再生、メッセージスキップと最低限揃っているようには見えるが、実はあまり細かい調整は出来ない。ゲームシステム周りについては後ほど気になった点でも解説したいと思う。

なお、本作はブラウザゲーム専用でありダウンロードして遊ぶことは出来ない。ゲームを遊ぶ際はF11キーを押してブラウザを最大化して遊ぶと臨場感が増すのでオススメしておきたい。

評価したい点

恐怖を演出するだけでなく謎かけにもなるこのバランス感覚が絶妙なのである

ホラー/サスペンス要素を持ちつつ謎や伏線が絡み合う濃厚な物語

ノベルゲームを評価するにおいて、物語性は非常に重要である。他の要素で差別化することが難しいためだ。その点において、本作は他のノベルゲームとは一線を画すオリジナリティを持っていると言えよう。

ゲーム最序盤では良くあるホラーゲームのような展開よろしく、異界に迷い込んだ先で見たことの無い異形のバケモノに追い回されるというありふれた導入から始まる。この段階で本作を評価するのは全くもって早計だ。本作の導入部分からもう少しだけ話を進めていくと、様々な謎かけ、伏線が張り巡らされていく。

つまり、異形のバケモノに襲われるホラー要素般若面の襲撃犯に刺されるサスペンス要素はもちろんのこと、なぜこんな目に遭っているのか、この状況を打開するにはどうすれば良いのかを深堀りし真剣に推理することになる。ゲームを進めるにつれ少しずつ明らかになる僅かな情報やヒントを頼りに謎を解き、閉塞感に苛まれた状況を打開し、伏線を回収しつつ最後に訪れる結末へ辿り着く物語はとても見応えがある。

ここまでの解説で本作がホラー、サスペンス、そして難解な謎が詰まった魅力ある一作であることがお分かり頂けるだろうか。序盤では至極複雑に感じられていた物語が、1つに繋がるように集約していくカタルシスは本作ならばこそ。最後にもう少しだけ補足すると、実は大正という時代設定もただの雰囲気付けではなくちゃんとした理由がある

成長する魅力的なキャラクター達

ストーリー展開の都合で無理も無いとはいえ、最序盤ではキャラクターの魅力もイマイチなのだが…

魅力的なストーリーには魅力的なキャラクターも付き物であり、本作も例外ではない。

ゲームを進めるにつれて主人公以外にも登場人物が増えていくが、実のところ序盤ではイマイチ頼りない愛着の持てないキャラクター達が多いように感じられる。そういったキャラクター達が色々な経験を経て、立派なキャラクターに成長していく様は長編作品ならではの魅力だと言えるだろう。どのように成長していくのかは是非プレーヤー自身の目で確かめてみて欲しい。

著者が思うに、ストーリー進行に沿って謎が解けはじめ、かつキャラクターが立派になっていく過程がしっかりしていることから、ストーリーが右肩上がりで面白くなっていく印象がある。どうか最序盤で『どっかで見た展開だな』と思わずに是非物語を読み進めてみて欲しい。

気になった点

痒い所に手が届かないシステム面

ゲームシステム紹介でも触れたが、本作はノベルゲームということもあり、システム面が非常にシンプルだ。しかしそれでもシンプル過ぎるがゆえに、気になる点は幾つかある。

まずはテキストをクリックせずとも自動で読んでくれるオート機能。これはノベルゲームの定番だが、再生速度の調整が出来ない。メッセージスキップ機能も、既読かどうかの判定が無い。シナリオチャート機能も無いので、任意の章に飛ぶといったことも出来ない。最大セーブスロット数は5つと少なめで、かつブラウザゲーム専用であるためお気に入りのシーンを狙ってセーブデータを残しておくようなこともし辛い。

最後に、ゲームをクリアしてもシーン再生やイベントCG観賞、音楽鑑賞、エンディングリストといった情報が一切開示されないのも気になった。最後まで遊んだプレーヤーに向けて、これくらいのご褒美はあっても良いのではないだろうか。

最終章からエンディングへの流れ

実は個人的に最も気になってしまったのがこの点である。
私は先程の評価点の項にて、ストーリーが右肩上がりで面白くなっていくと説明した。しかし、最終章に限ってはストーリー展開が少々唐突で、かつすぐさまエンディングに入ってしまうので消化不良感が否めなかった。

本作は最終章に至るまでは時間をかけてとても丁寧に物語を紡がれていた印象があったので、この展開には少々残念な気持ちもある。これは単なる推測だが、ゲームを完成させなければいけない事情があったのだろうか…。

【ネタバレ注意】最終局面からエンディングへの流れを解説【クリックで展開】

ゲーム序盤で主人公の依千葉はとあるキャラクターに出会う。その人物は強キャラ感を漂わせる一方で依千葉達への案内人、解説者ポジションのキャラであり、序盤以降は一切姿を見せることは無い。

しかしその人物は最終章になって突然姿を現し(一応伏線はある)自分だけに特別備わっている特殊能力を使って本編の黒幕に精神攻撃をかけ、黒幕は自宅の庭にある池に落ちて怨嗟の霊たちに体を引きずられ、そのまま姿が見えなくなる(現実世界の出来事でかつ、本来足が付く池のはずなのだが…)

そしてTRUE ENDの表記が出てそのままスタッフロールへと進む。ここまでにかかる時間は約10時間の物語のうちの実に15分である。更にはエピローグ的な話も何も語られないので、黒幕を殺したあと依千葉達はどうなったかのかプレーヤーはすべて想像するしかなく、少々唐突に感じたのは否めない。

総評

物語の導入で見られる怒涛のサスペンス/ホラー展開もさることながら、謎多きミステリアスなストーリー展開、伏線を回収しつつ最後に訪れる結末へ辿り着く物語はとても見応えがある。良質な物語に呼応するようにキャラクターもとても魅力的だ。ゲームシステム周りも欠点と言うほどではないだろう。唯一、最終章が気になったのだがそれを差し引いたとしてもオススメ出来る作品だ。

ゲームプレイ

ノベルゲームコレクション

NovelGame Collection(Multilingual)

脚注

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