『アイスさん探訪記』じっくり観察し勝利の糸口を掴め!戦略性あるタイムカウント性バトルが魅力のシステム重視RPG

〇複雑で戦略性のある独特なタイムカウント性バトル
〇MIDIをはじめ独自性高く良質なBGMの数々
〇良くも悪くもVIPRPG要素が詰まった一作

目次

概要

89氏により制作されたフリーゲームRPG。同じくフリーゲームの名作『ふしぎの城のヘレン』を彷彿とさせる戦略性のあるタイムカウント性バトルが魅力。沢山のVIPRPG要素が詰まった作品でもある。プレイ時間は6時間程度。

ストーリー

魔王把握祭に選ばれたアイス(左上)は仲間に礼を伝え、旅立ちを決意

本作の主人公アイスは師匠の推薦が通り、魔王把握祭の勇者役に選ばれた。これをやり遂げると次期勇者候補に選ばれるという。次期勇者候補になると大陸中の何処にでも行けるようになり、各地で依頼を解決する権限を貰えるという。

マスターや師匠の手伝いをするうちに世界各地を廻りたいと思っていたアイス。
これを良い機会と考え、時を同じくして魔王把握祭に参加する強敵たちと戦うことになった。

果たしてアイスは魔王把握祭をやり遂げ、次期勇者候補になることが出来るのか。

ゲームシステム

独自のタイムカウント式戦闘システム

本作では一部のチュートリアルを除き、味方と敵がそれぞれ3対2で戦う構成となっている。一見するとかなり情報量が多そうに見えるがまさにその通りであり、理解するまでが結構大変である。独特なシステムなのでゲーム序盤は混乱するかもしれない。幾つか代表的な要素を紹介しよう。

情報量が多い独特なUIは慣れるまで少々大変かもしれない

まず画面右側を見ると味方が3人いるのが分かるが、操作するのは主人公であるアイスさんただ一人だけ。後衛に居る魔法使いの女の子は様々な状況に応じて予め決められた行動を勝手に取ってくれる。右上に居る時魔導士の女の子はサポート的な立ち位置で基本的には攻撃に参加することはなく、パッシブで基礎能力を上げたり戦闘中たった一度だけ切り札スキルを発動できるといった役割がある。

肝心のアイスさんの行動選択だが、画面下の方にて装備しているアイテムやスキルから一つだけ選択して戦うコマンド式RPGの様相となっている。コマンド選択した結果によって、自身のステータスも変化していくのだ。例えば剣を選択するとATKが高くなり、盾を選択するとDEFが高くなるといった具合だ。

本作の大きな特徴として、RPGには珍しく敵側の行動予測が全て開示されている
例えば女剣士は【Fディフェンダー】つまり前衛(Front)をディフェンダーで攻撃することが予測でき、弓使いは【Bクロスボウ】つまり後衛(Back)をクロスボウで攻撃することが予測できる。何か策を講じないとHPの低い魔法使いの女の子がやられかねない、危険な状況というワケだ。

さて、最も重要なのはWTという数値だ。勘の良い人は気づいたかもしれないが、この数値は次に行動に移せるまでのタイムカウント(ウェイト)を意味している。仮にロングソードを選択した場合の行動順は、弓使い(最左)が最も早く、次に女剣士(左)、アイスさん(右)、魔法使い(最右)という順番で行動することになる。

行動選択完了後はカウントダウンが始まり、敵味方が入り乱れての攻撃/補助/回復等が一斉に行われ、全員の行動が終了したらまたコマンド選択画面に戻り、それを繰り返して戦うバトルシステムとなる。

独自の連携カットインはキャラ毎に異なり演出向上に一役買っている

ゲームを盛り上げる要素として、サガシリーズでおなじみの連携という要素も盛り込まれている。これは、味方キャラ二人の選択したコマンドのWTが全く同じで、かつ連携が可能なコマンド技で、かつ選択した敵のターゲットが同じ、という条件をクリアして初めて発動することが出来る大技である。

連携技は威力が高いうえに相手の耐性を無視出来たりと利点しかないので積極的に使っていきたいところだが、やってみると狙って出すのはなかなか難しい。味方の行動が選択出来ない仕様も相まって、敵の攻撃を上手く捌きながら行動ターンを調整するのは大変だからだ。連携を出すことに執着し過ぎてパーティが壊滅してしまっては元も子もない。

親切なことに、初めて状態異常にかかった際はこのような説明書きが表示される

RPGらしくご多分に漏れず、状態異常という概念も存在する。
いずれの敵も 無効>強い>普通>弱い と4段階の数値で判断でき、相手の状態異常耐性が弱くなるにつれて付与し続けられるターン数(WT)も長くなるという仕組みだ。言うまでもないが状態異常を長く付与出来た方が有利であるため、相手のステータスを見て弱点がある場合は積極的に狙っていくと良いだろう。

なお、敵の状態異常が解除されるタイミングで必ず免疫というパッシブステータスが付与される。
これは名前の通り、暫くの間(15WT)は絶対に状態異常にかかることはないというパッシブであり、この要素のおかげでいわゆる状態異常ハメが出来ないのだ。ちなみに敵味方共通の要素であり、恩恵を受ける時もあれば悔しい思いをすることもある。

パーティカスタマイズシステム

本作はRPG定番の雑魚戦が無く、更に取得できるアイテムも完全に固定である。
そのため戦闘前に準備するパーティカスタマイズが非常に重要になってくる。

代表的な要素を下記に紹介しよう。

各種戦闘スタイルの長所を理解しないと攻略は難しい

本作はゲームを進めると様々な武器が手に入り、装備すると二種類の武器の組み合わせにより様々な戦闘スタイルを身に付けることが出来る。敵や味方の相性に合わせて様々な戦闘スタイルを使ってみよう。
例えば以下のような戦闘スタイルが使用できる。

二刀流   :DEFにボーナスが入り、強力な必殺技が使用可能。
二丁拳銃  :銃技使用時のWTが1減少し、強力な必殺技が使用可能。
ガン=カタ :剣技使用時のWTが2減少し、強力な必殺技が使用可能。
魔法剣   :ATKにボーナスが入り、強力な魔法剣が使用可能。

基本的に武具強化は3段階まで可能。お気に入りの装備を見つけよう。

更に、戦闘後に手に入るお金を使ってアイテムの購入をはじめ、生命力&武器防具の強化も可能だ。使用したお金はいつでも懐に戻すことが出来る親切仕様のため、お気軽に試してみると良いだろう。

なお本作はゲーム進行に応じて確実にアイテムやお金を入手できる仕組みになっているため、取りこぼす心配は全くもって無い。親切と捉えるか、探索のしがいが無いと捉えるかはあなた次第だ。

シンプルで分かりやすい入れ替えUIは戦闘参加メンバーの選定に役立ってくれる

本作は基本的には固定メンバーで戦うことになるが、ゲーム後半はパーティ編成が出来るようになる。個人的にはここからがプレイヤーの戦略性の真価が問われ、戦闘がグンと面白くなる頃だと思っている。
固定メンバーで戦うということは、そのメンバーでなら必ず勝利出来ることに等しいからだ。
そういう意味で、もう少し早くパーティ編成出来た方が頭を悩ます機会が増えて良かった気もする。

御覧の通り、かなり細かく味方の行動戦略を調整できる

アイスさんと一緒に戦う味方は決められたルーティーンに沿って行動するため、思うような行動を取ってくれず歯がゆい気持ちになることもあるだろう。実は本作は、そんなプレイヤーのために何と全てのキャラの行動を思い通りに制御できる作戦システムもあるのだ。

「えっ?そんなことまでしなきゃいけないの?大変過ぎて正直面倒なんだけど…。」

という声が聞こえてきそうだが…(自分がそうだった)心配には及ばない。どのキャラクターも初期の作戦設定でそれなりに上手に戦ってくれるからだ。この作戦画面を変更することになるのは、一部のシビアな縛りプレイを目論むプレイヤー(自分がそうだった)くらいだろう。どちらにしろ、痒い所に手が届くカスタマイズ性の高いゲームデザインであることは間違いない。

トロフィー取得システム

腕に覚えのあるプレイヤーは是非とも全種トロフィーを取得してもらいたい

本作はフリーゲームには珍しくトロフィー機能が搭載されており、様々な制限プレイを課して攻略することで自室でトロフィーを飾ることが出来るようになる。また、昨今のゲームハードと同様にトロフィーのセーブデータは共有されているので、別のセーブデータで別のトロフィーを取得したとしても総合的にカウントされるようになっている。地味に嬉しい要素だ。

地味にありがたい点として、トロフィーが取得出来ない恐れがあるタイミングで警告メッセージが表示されることだ。例えば偶然にもアイテムを一度も購入せず進めており、いざ購入しようとした場合に「『アイテム購入禁止縛りでクリア』が不可能になるけどそれでも良い?」といったメッセージが表示される。これで偶発的な選択ミスによる事故を防ぐことが出来る(自分がそうだった)

ちなみに公式で最も難易度の高い縛りプレイが『アイテム購入禁止』『生命力増強禁止』『武具強化禁止』『金庫引き出し禁止』『体術禁止』の5種縛り状態でクリアすることだ。難易度は高いが、クリア出来た時の達成感はなかなかのものなので腕に覚えのあるプレイヤーは是非挑戦していただきたい。

もちろんストーリーには全く影響が無いので、興味が無い人はスルーしても全く問題無い

評価したい点

特定の連携が決まった時のエフェクトはなかなか派手で見応えがあり、本作の魅力の一つでもある

より進化し戦略性の増したタイムカウント性バトル

本作において何よりも真っ先に評価したい点がコレである。

敵味方含め合計5人ものキャラクターが入り混じったタイムカウント性バトルは非常に戦略性があり、こちらの立てた戦略が思う様に進み、相手を意のままに操り完封した時の達成感は中々のもの。まるで詰将棋を行っているような錯覚すら覚える独特なゲームシステムを体験できるはずだ。

ゲームシステム解説では尺の問題で割愛させていただいたが、他にも戦闘不能に陥った際の復帰時間を利用した戦略や、意図的に隊列を変更し敵のターゲットをかく乱する戦略など、後半になるにつれてどんどんアイデアが増えてくるので楽しくなってくること請け合いだ。

もちろん慣れが必要なので最初は上手くいかないだろう。しかし本作はたとえ戦闘で全滅したとしてもデメリット無しで幾らでもノータイムで再戦することができるし、何なら戦闘中に逃走して仕切り直すことも何度だって可能だ。妖精さんから勝つためのヒントを貰うことだってできる。このあたりの何度もやり直すことを前提としたゲームデザインはユーザーフレンドリーで大変よろしい設計だと思う。

複雑なタイムカウント性バトルといっても、将棋などの競技と違い時間制限は全く無いのだから、盤面を落ち着いて観察し、じっくり考えて戦えばいずれ活路を見出すことが出来るはずだ。

『ふしぎの城のヘレン』タイムカウント性バトルをはじめとするクォリティの高さで人気を博した

実はこの特徴的な戦闘システムはフリーゲームの名作『ふしぎの城のヘレン』が元祖となっている。

もともと作者の89氏は同作に感銘を受け、同作のタイムカウント性バトルがより進化した形のRPGを作りたいと考えたことが本作の制作のキッカケになったと語っている。比較的シンプルな1対1のタイムカウント性バトルから、3対2のそれに進化していることが画像から見て取れるだろう。

それでいて、同作で際立っていたランダム要素の排除という概念をしっかり継承した作りになっているのも好感が持てる。ここまで読んでいてピンときた人も居るかもしれないが、本作もRPGでいうところのランダム要素を完全に排除することに成功している。敵も味方も特定のルーティーンに沿って特定のコマンドを選択するし、ダメージ幅に乱数が発生することも無いためだ。しかも本作では一見ランダム要素の悩みのタネになりそうな状態異常という新要素が追加されたのだが、これも上手い仕様調整で排除することに成功している。

かくいう私も『ふしぎの城のヘレン』を大変楽しませていただいたので、上述した通りより進化し戦略性の増した本作はまるで同作の精神的続編を遊んでいるかのような錯覚すら覚えた。改めて89氏の取り組みに感謝したいと思う。

とはいえ『ふしぎの城のヘレン』を楽しめた人は必ず『アイスさん探訪記』を楽しめるのかというと、実はそうとも限らないと著者は考える。詳しくは後述の気になった点にて語ろうと思う。

良質なMIDI曲が揃った懐かしさのある音楽性

本作のBGMはちょっと特殊で、なんとMIDI楽曲が多く使われている
昔からRPGツクールや古いゲームソフトを遊んでいるプレーヤーはご存知だろう。

MIDIについて軽く補足すると、楽曲ファイルのサイズを小さくできる利点がある一方でPCの再生環境に依存1するデメリットもあった。そして時代の流れと共にPCは大容量化、Windows側のサポートも最低限となり、MP3など環境に依存しない楽曲ファイルが使われるようになっていった歴史がある。

そんな中でMIDIを選定する拘りを感じられるし、もちろん良質な楽曲が使われているのも言うまでもない。MIDI独特の曲調を楽しむことができたし、寧ろ昨今のフリーゲームと比較すると一周回って斬新さを感じられたのは嬉しい誤算だったとも言えよう。

参考までにお気に入りのMIDI曲を紹介しておこう。
promise(long ver):まるで昔のテイルズシリーズを遊んでいるような懐かしさが感じられる。
sol_battle041.mid:これぞ和風だといわんばかりのいぶし銀な雰囲気が最高だ。
helix_owata.mid :クライマックス付近で流れ、終わり時が近づいているという気分にさせられる。

ただまぁこの際なのでMIDI以外のお気に入り曲も紹介しておこう。
tukito287_cross_heart_synth_rock:直前のイベントシーンも相まって最初から最後まで熱さのある曲。
m-art_ba_ボクの名前を呼んで_CallMyName:どこか儚げな哀愁漂う雰囲気がたまらなく良い。

ちなみに先に紹介した『ふしぎの城のヘレン』でもMIDIファイルが多く使われている。
こちらも負けず劣らず良曲揃いなので是非意識して聴いてみて欲しい。

気になった点

少年ジャンプの某探偵漫画にこんなキャラが居たような…

良くも悪くもVIPRPGのクセが強い

これは最も気になった点であり、人によって大きく意見が分かれる点だろう。
本作はRPG以前にVIPRPGというジャンルであり、普通とは異なることを忘れてはいけない。

序盤から終盤までVIPRPGではおなじみのキャラクター、大陸、部隊等が登場するが、特に込み入った説明がなく2全てプレイヤーが知っている前提のもとにストーリーが進んでいく。そのためVIPRPGについて予備知識の無い、何も知らないプレイヤーは割と置いてけぼりな感覚になることは否定できないだろう。肝心のストーリーも、魔王把握祭に則りVIPRPGの登場キャラを倒していくだけと極々シンプルだ。

戦略性のある優れたゲームシステムでもまずストーリーやキャラクターに魅力が無いと…という人も一定数存在するであろうことは想像に難くない。ただでさえシステム理解の難しいゲームであれば尚更だ。逆に言えば、普段からVIPRPGを嗜んでいる人にとっては十分に楽しめるとも言える。

育成、探索といったRPG要素が薄め

ゲームシステム紹介で上げたように、本作は雑魚戦が無くアイテム入手も完全に固定である。ダンジョンや街を進むことはあるが、一本道であるため進めされられている感が強い。そのため、ダンジョンをくまなく探索してレアアイテムをゲットするだとか、たまにしか出現しないレア敵を倒して大量の経験値を入手するだとか、そういったRPG定番要素を楽しむことは出来ない

育成面にしても、戦闘で入手したお金を使って育成することは可能だが、成長させる対象はほぼ主人公のアイスさんただ一人。その分、LP増強やアイテム段階強化、スタイルチェンジなどやれることは多いのだが。

もっとも、雑魚戦や育成、探索要素まで入れるとゲームデザインやボリューム、ゲームバランス調整が難航するのは火を見るよりも明らかであり、この点を気になった点として挙げるのは少々忍びない気持ちもある。とはいえ、こういった要素こそRPGの醍醐味だと思っている人には少々気にかかるやもしれない。

総評

タイトル画面のアイスさんの可愛らしい笑顔とは裏腹に、戦略性に溢れる進化したタイムカウント性バトルには驚かされた。ゲームを進めるにつれて様々な戦術を楽しめるし、上手くハマった時の快感はなかなかのものだ。腕に覚えのあるプレイヤーは是非とも全縛りでクリアを目指して欲しい。その反面、見逃せない気になる点も確かにあるので人を選ぶゲームとも言えるだろう。

ゲームプレイ

VIPRPG紅白2022

脚注

  1. ひどい場合は曲が一切鳴らなかったり、同じ曲なのに全く別物に感じられることも ↩︎
  2. 一応、自室の用語辞典を読み込めばある程度補完することは出来るが、本編では語られない ↩︎
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次